青藍メモ

青藍メモ

令和元年司法試験予備試験論文式試験の答案を晒すブログです。

刑事訴訟法 令和元年司法試験予備試験論文式試験

はじめに

青藍です。

予備試験の短答式試験・論文模試の結果と論文本試験の結果との相関関係について探るべく、私の再現答案を晒します。

短答・論文模試の結果等

総合

短答 191点(法律158、教養33、340番台)

塾 260番台/602人

辰巳 90番台/311人

刑訴法

短答 22点

塾 450番台/602人

辰巳 220番台/311人

再現答案(2.2枚程度)

第1 下線部の勾留は適法か。以下検討する。

1 裁判所は、被告人(本件では、被疑者)が罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由がある場合で、刑事訴訟法(以下、法名略)60条1項各号に定める事由がある場合、これを勾留することができる(207条1項、60条1項)。そして、207条1項は「前3条の規定による勾留の請求を受けた裁判官は」と規定しており、勾留の前に適法な逮捕が前置されていることを前提としている(逮捕前置主義)。そこで、勾留請求に先行する逮捕が適法か、問題となる。

(1)「司法警察員は、逮捕状により被疑者を逮捕したとき…は、48時間以内に」これを検察官に送致する手続をしなければならない(203条1項)。

 Pらが甲を逮捕状により通常逮捕したのは、令和元年6月6日午前9時10分であり、H地方検察庁に送致したのは、6月7日午前8時30分であるから、この間23時間20分であり、203条1項の要件をみたす。

(2)次に「検察官は、203条の規定により送致された被疑者を受け取ったときは、…被疑者を受け取ったときから24時間以内に裁判官に勾留の請求をしなければならない」(205条1項)。検察官がVの身柄を受け取ったのは6月7日午前8時30分であり、勾留請求をしたのは6月7日午後1時であるため、この間4時間30分であり、205条1項の要件をみたす。

 そのため、甲の逮捕は適法といえそうである。

2 しかし、Pは甲の背中を押し、Qは甲の片腕を引っ張るなどして甲をパトカーに乗せているため、この時点で実質的な逮捕があったといえないか。仮に実質的な逮捕にあたるとすると、無令状逮捕として違法になりそうなので、問題となる。

(1)「逮捕」とは、個人の意思を制圧し、強制的に身柄を拘束する行為であり、これは強制処分にあたる。

(2)6月6日午前3時5分頃、Pらは、4名の警察官で甲を取り囲んでおり、通常人であれば身動きの取れない状態に甲を追いやっている。そして、甲は「俺は行かないぞ。」などと言い、パトカーの屋根を両手でつかんで抵抗し、明確な拒絶の意思を示しているにもかかわらず、Pは甲の背中を押し、Qは甲の片腕を引っ張るという有形力を行使して、甲をパトカーに乗せている。そして、そのパトカーの車内においても、甲を後部座席に座らせ、PとQがこれを挟むようにして座り、甲が身動きできないようにしている。

 したがって、Pらが甲をパトカーに乗せた6月6日午前3時5分頃の時点において、甲の意思を制圧し、強制的に身柄を拘束したといえ、実質的な逮捕があったといえる。そしてこれは無令状逮捕にあたる。

(3)しかし、甲は、本件事件の犯人と酷似しており、甲のズボンのポケットから本件事件の被害品たるV名義のクレジットカードが落ちている。そのため、甲が本件事件の犯人である嫌疑が濃厚であり、「長期3年以上の懲役…にあたる罪を犯したと疑うに足りる充分な理由」があると認められ、緊急逮捕(210条1項)が可能な状態にあった。そのため、甲をパトカーに乗せたことは、適法である。

3 以上より、下線部の勾留は適法である。 以上

現場での思考

刑法で時間をかなり消費してしまい、かなり急いで答案を作成しました。

実質逮捕の認定において、可能な限り事実を引用して評価するように心がけました。

時間が足りなくなってしまい、緊急逮捕の検討を厚くできなかったのが残念です。近接所持の法理など、詳しく書ける話があったと思うので。

刑法 令和元年司法試験予備試験論文式試験

はじめに

青藍です。

予備試験の短答式試験・論文模試の結果と論文本試験の結果との相関関係について探るべく、私の再現答案を晒します。

短答・論文模試等の結果

総合

短答 191点(法律158、教養33、340位)

塾 260番台/602人

辰巳 90番台/311人

刑法

短答 24点

塾 250番台/602人

辰巳 40番台/311人

 

再現答案(3.8枚)

第1 業務上横領罪

 甲が、Aとの間で、本件土地の所有権をAに移転させる合意をした行為について、業務上横領罪(刑法(以下、法名略)253条)が成立しないか。

1 「業務」とは、社会通念上反復・継続して行う事務をいう。

 甲は不動産業者であり、社会通念上反復・継続して他人の不動産を占有する業務を行う者であるから、「業務」の要件をみたす。

2 「自己の占有する」とは、事実上の支配のみならず、法律上の支配も含む。

 甲は、Vから本件土地に抵当権を設定してほしい旨の依頼を受け、同依頼に係る代理権を付与され、本件土地の登記済証や委任事項欄の記載がない白紙委任状等を預かっている。このことから、甲は、本件土地について法律上の支配を及ぼしているといえるから、「自己の占有する」の要件をみたす。

3 「他人の物」とは他人の所有する財物であり、本件土地はXの所有の不動産という財物であるため、「他人の物」の要件をみたす。

4 「横領」とは不法領得の意思の発現たる一切の行為をいい、具体的には、権利者でなければできない処分をする行為をいう。

 甲は、某月5日、Aにとの間で本件土地の所有権を同月16日に移転させる旨の合意をしており、これは本件土地の所有権者であるVでなければできない処分といえるから、不法領得の意思の発現たる行為があったといえ、「横領」にあたる。

 なお、16日に所有権を移転する旨の合意であったため、5日の時点では本件土地の所有権がAに移転しておらず、表見代理も成立しないため、Vの本件土地に対する所有権は害されていないようにも思える。しかし、所有権の移転時期が到来していなくても、甲のAとの合意により、VとAとの間で本件土地の権利関係に関する紛争が生じるのは明白であるから、5日の合意の時点で実質的にVの本件土地に対する所有権が害されたといえ、この時点で横領の既遂となる。

5 甲には、不法領得の意思及び故意(38条1項)も認められる。

6 以上より、甲に業務上横領罪が成立する。

第2 有印私文書偽造

 甲が、本件売買契約書2部の売主欄にいずれも「V代理人甲」と記載した行為について、有印私文書偽造罪(159条1項)が成立しないか。

1 「行使の目的」とは、真正な文書として利用する意思をいい、甲にはこれが認められる。

2 甲は、後述するように「V代理人甲」と「署名」している。

3「事実証明に関する文書」とは、実社会生活上交渉を有する事項について証明する文書であるところ、本件売買契約書はこれにあたる。

4 「偽造」とは、本罪の保護法益が文書に対する社会の信頼であることに照らせば、文書の名義人と作成者との間に不一致を生じさせることをいう。名義人の判断は、文書の記載のみならず、文書の性質も踏まえて行う。

 本件土地の売買契約書の売主欄には「V代理人甲」との記載があるところ、土地の売買契約書という性質も考えると、この売主欄には、「適法にVから代理権が授与された甲」による署名が予定されているものである。したがって、本件売買契約書の意思・観念の主体たる名義人は「適法にVから代理権が授与された甲」であり、作成者は「無権代理人にすぎない甲」であるため、両者に不一致が生じている。したがって、甲は「偽造」したといえる。

5 甲には本罪の故意も認められる。

6 以上より、甲には有印私文書偽造罪が成立する。

第3 有印偽造私文書行使罪

 甲は、本件売買契約書を真正なものとしてAに渡しており、故意もあるので、かかる甲の行為について有印私文書行使罪(161条)が成立する。

第4 強盗殺人罪

 甲が、不動産業の免許取り消し等を免れるため、Vの首をロープで絞めた上海中に捨て、Vを溺死させた行為について、強盗殺人罪(240条、236条2項)が成立しないか。

1 「暴行又は脅迫」(236条2項、同条1項)とは、人の反抗を抑圧するに足りる有形力の行使又は害悪の告知をいう。

 甲は、Vの首を力いっぱいロープで絞めており、これは人の反抗を抑圧するに足りる有形力の行使といえるから、本罪の「暴行」にあたる。

2 「財産上不法の利益」とは、財物以外の一切の財産的利益をいう。

 甲は、Vを殺害することにより、勝手に本件土地をAに売却したことに対するVによる追求を逃れ、不動産業の免許の取消し及びVに対する民事上の責任(民法709条、415条等)を免れることができるので、財物以外の財産上の利益を得たといえるため、「財産上不法の利益」を得たといえる。

3 甲がVを海に落としたことにより、Vという「人」を溺「死」させている。

4 甲に故意が認められるか。甲がVを海に落としたとき、甲はVが既に死亡していると誤信しており、実際にはVは生きていたため、因果関係の錯誤が問題となる。

 この場合、行為の有する危険が結果に現実化したといえる場合には故意が認められ、その判断においては犯人の計画も考慮すると考える。

 本件について、甲は、Vをロープで絞殺して海に落とすという計画のもと、Vの首をロープで絞め、その後海に落としている。かかる甲の計画を考慮すると、行為の有する危険が結果に現実化したといえる。したがって、甲には本罪の故意が認められる。なお、240条には「よって」の文言がないため、本罪は殺意ある場合も含まれる。

5 よって、甲には強盗殺人罪が成立する。

第5 罪数

 以上より、甲には①業務上横領罪、②有印私文書偽造罪、③有印偽造私文書行使罪、④強盗殺人罪が成立し、②と③は牽連犯(54条1項後段)の関係に立ち、これと①及び④は併合罪(45条前段)の関係に立つ。 以上

現場での思考

業務上横領罪の成否を検討するにあたり、本件土地の所有権がAに移転するのは合意時ではなく将来であるという事情をどのように使うか悩みました。

強盗殺人罪で、「財産上不法の利益」の認定を悩みました。甲は「不動産業の免許取り消しを免れたい」と言っていましたが、口封じすれば免許の取消しを免れるという必然性はあるのだろうか…?と不安になり、これだけで利得を認定するには心細く感じました。

そこで、元々甲はVに依頼を受けて(委任とかでしょうか?)本件土地に抵当権を設定することになっており、甲が勝手に本件土地をAに売り払ったことについてVは立腹していたようなので、表見代理の成立が否定されるにせよ、甲のVに対する何らかの民事上の責任(慰謝料?709条、債務不履行?415条)が発生するのではないかと考えました。それで、Vを殺せばVに対する民事上の責任も追求されるおそれがなくなるから、利得をありにしてしまおうと思いました。

その他、各罪の構成要件要素についてはねちっこく抽出・定義づけ・あてはめをするように心がけ、240条に殺意ある場合を含むか否か、因果関係の錯誤についても触れました。

個々の論証について乱暴な点が多々ありますが、現場ではこれが精一杯で、答案もほぼ全部埋まってしまい、これ以上書くスペースがありませんでした。

行政法 令和元年司法試験予備試験論文式試験

はじめに

青藍です。

予備試験の短答式試験・論文模試の結果と論文本試験の結果との相関関係について探るべく、私の再現答案を晒します。

短答・論文模試の結果等

総合

短答 191点(法律158、教養33、340番台)

塾 260番台/602人

辰巳 90番台/311人

行政法

短答 20点

塾 540番台/602人

辰巳 80番台/311人

 

再現答案(2枚程度)

第1 設問1

1 本件許可処分は、行政事件訴訟法(以下、法名略)2条の「処分」にあたる。そのため、Cに本件取消訴訟(3条2項)の原告適格が認めれれるためには、「法律上の利益を有する者」に該当する必要がある(9条1項)。

2 「法律上の利益を有する者」とは、当該処分により自己の権利若しくは法律上保護された利益を侵害され、又は必然的に侵害されるおそれのある者をいい、法律上の利益の有無を判断するにあたっては、行政法規が当該利益を一般公益の中に吸収解消させるにとどまらず、個々人の個別具体的利益として保護する趣旨かを、9条2項により判断する。

3 本件について見るに、本件許可処分は条例6条1項に基づく申請に対するものであり、具体的な許可基準は規則に定めがある。

 条例の目的は、広告物に対し「必要な規制を行い、もって良好な景観を形成し、及び風致を維持し、並びに公衆に対する危険を防止すること」である(条例1条)。そして、条例6条1項に基づく申請に対する許可の基準は、規則10条1項及び2項により、規則別表第4及び規則別表第5に定めがある。

 ここで、県としては、別表第4各号においては、広告物等の色や塗料等に対する規制が定められており、これは良好な景観という一般公益を保護する趣旨であり、Cの個別具体的権利を保護する趣旨ではないと反論する。

 しかし、Cとしては、本件広告物が、自己の生活の平穏及び安全を害するものであり、条例及び規則が保護するCの個別具体的権利を侵害するおそれがあると主張する。即ち、Cは本件申請地点の隣地に居住する者であり、広告物の発する映像の影響を直接的に被る者であり、これは別表第4が保護しようとしている広告物周辺の景観の利益である。そして、別表第5(イ)及び(ロ)は、建築物等から独立した広告物等の面積や高さの限度を規制するものであり、広告物等の倒壊により周囲の人間が被る生命・身体・財産への危険を軽減するための規制と解される。そのため、本件申請地点の隣地に居住するCは、本件広告物の倒壊により自己の生命・身体・財産に直接的な危険が及ぶ地位にあり、これは条例及び規制がCの個別具体的権利として保護しようとした「公衆に対する危害の防止」という利益である。

 したがって、Cは、本件許可処分により、条例及び規則がCの個別具体的利益として保護しようとしたCの生活の平穏及び生命・身体・財産への安全を必然的に侵害されるおそれのある者といえるから、「法律上の利益を有する者」にあたる。

4 よって、Cに原告適格が認められる。

第2 設問2

 Bとしては、基準1における「鉄道等」から地下区間を除外していない点において、基準1は条例の委任の趣旨を逸脱しており、無効であると主張する。

 即ち、条例の目的は景観の維持等であるところ(条例1条)、線路の地下区間においては広告物が見えないため、この区間と広告物等との間に距離制限を定める必要がなく、かかる区間を除外していない基準1は、条例の委任の趣旨を逸脱したものであり、無効である。

                                   以上

現場での思考

設問1

Cに原告適格を認めてよいものか悩みました(個別具体的利益無くね…?)。

さりとてこれを認めないわけにもいかず、家の隣に派手な広告物があったら生活の平穏が害される、広告物が倒壊したら生命身体財産に危険が及び、これは条例及び規則が保護する趣旨であるなど、苦し紛れの言い訳をしつつ論述しました。

再現答案書いてて気づいたのですが、別表第5の二は、建築物等から「独立した」広告物についてのみ、面積や高さ制限がかかっています。

これはもしかしたら、建築物等から「独立した」広告物については、支柱がボキッと折れて隣家に損害を与える可能性があるから、その被害を軽減するため大きさの制限がかかっている、とも考えられないでしょうか。仮にそうであるなら、答案に示せればよかったなと思います。

設問2

時間がなかったのでこの程度の分量しか書けませんでした。地下に存在する線路については、どうせ広告物が見えないんだから距離制限を掛ける必要はないだろうということを述べました。

憲法 令和元年司法試験予備試験論文式試験

はじめに

青藍です。

予備試験の短答式試験・論文模試の結果と論文本試験の結果との相関関係について探るべく、私の再現答案を晒します。

短答・論文模試の結果等

総合

短答 191点(法律158、教養33、340番台)

塾 260番台/602人

辰巳 90番台/311人

憲法

短答 18点

塾 60番台/602人

辰巳 30番台/311人

再現答案(3.8枚程度)

第1 Xとしては、甲市立乙中学校がXの調査書における3年間の保健体育の成績をいずれも「2」としたことは、Xの人格権を侵害するものであり、憲法(以下、法名略)13条に反し違憲である旨主張する。

1 Xは、宗教上の理由により肌を露出できない。ここで、人前で肌を露出しない自由が13条により保障されるかを検討する。

 13条は、「生命、身体及び幸福追求に対する国民の権利については、公共の福祉に反しない限り、立法その他の国政の上で、最大の尊重を必要とする。」とある。そのため、「Xの肌を露出しない自由」も人格権として保護されそうである。

 ここで、「人格権」という文言は憲法上の規定になく、かかる権利は認められないとの反論が考えられる。

 しかし、国民は、基本的人権の享有を妨げられず(11条)、憲法が国民に保障する自由及び権利は、国民の不断の努力によって、これを保障しなければならない(12条)とされており、明文なき権利であっても、憲法上の権利として13条を根拠に認めることができると解する。ただし、これを無制限に認めると他の人権が十分に保障されなくなるおそれがある。そのため、人格権を認めるためには、当該利益がその者の内的世界の根幹にかかわるような重要なものである必要がある。

 本件について見るに、Xは、B教の信者であり、宗教はその者の内的世界の根幹を基礎付けるものである。そして、B教の重要な戒律として、女性は人前で肌を露出してはならないとされている。このことからすると、Xにとって、人前で肌を露出しない自由は、自己の内的世界の根幹にかかわる重要な利益といえるから、人格権として13条により保障される。

2 Xは、3年間を通じて調査書における保健体育の成績を、5段階評定で低い方から2段階目の「2」という低評価を受けている。Xは運動を比較的得意としており、この評価には水泳の授業への不参加が影響していることは明らかであり、学校側もこれを認めている。したがって、Xの人格権に対し、間接的な制約が認められる。

3 それでは、かかる制約は認められるか。憲法上の人権であっても無制限に認められるものではなく、公共の福祉(13条)による制限を受けるため、違憲審査基準が問題となる。

(1)人格権は重要な利益であるため、厳格な基準が妥当するようにも思える。しかし、学校教育においては専門技術的な判断が必要不可欠であるから、校長に広範な裁量権が認められる。したがって、裁量権の行使として全く事実の基礎を欠くか、社会通念上著しく合理性を欠き、裁量権の逸脱・濫用といえる場合には、違憲となると考える。その判断においては、考慮不尽、他事考慮、平等原則違反、比例原則違反といった事情を考慮する。

(2)本件について見るに、校長は、水泳授業の代替措置を講じるというXの要望が真に信仰上の理由によるものか判断が困難であるとしている。しかし、Xの代替措置の要望が真摯なものであるかどうかは、本人やその家族への面談等を通じて容易に知ることができるものであり、この点で考慮不尽が認められる。

 また、校長は、代替措置を講じた場合、他の女子生徒も同様の要望を行い、水泳授業の実施や成績評価に支障が生ずるおそれがあると主張する。しかし、甲市においてはA国出身の外国人が急増し、乙中学校においては、生徒の4分の1がA国民である。そして、A国民のほとんどはB教の信者である。とすると、乙中学校における生徒の4分の1近くの者がB教の信者であると考えられ、それだけ多くの者がB教の信者であるならば、これらの者に対し代替措置を講ずる等の一定の配慮をすることは、公平性を害するものでなく、むしろ公平の理念にかなったものである。したがって、この点でも考慮不尽が認められる。

 更に、Xは、水泳の授業を自主的に見学の上、教師にレポートを提出し、担当教員がこれを受領しているにもかかわらず、成績評価の際にこれを考慮しなかった。この点において考慮不尽が認められる。

 また、水泳の授業への不参加を理由として、運動が得意なXに対し、3年間に渡り下から2段階目の「2」の評価をつけ続けたことは、比例原則違反である。

 以上より、乙中学校がXに対し3年間に渡り保健体育の成績を「2」とし続けたことは、社会通念上著しく妥当性を欠くものであり、校長の裁量権の逸脱・濫用があったといえる。

3 以上より、乙中学校がXの調査書における保健体育の成績を3年間に渡り「2」とし続けたことは、Xの人格権を侵害するものであり、13条に反し、違憲である。

                                    以上

現場での思考

憲法については、人権認定の部分で非常に悩みました。

というのも、問題文を見て20条1項の信教の自由でいこうと思ったのですが…。

はじめにお断りしておくと、本問は20条1項でいくべきだったと激しく後悔しています。受験生の大多数がそのように書いていますし、アガルートの論証でもそのように論述していますので。

しかし、本問の題材となったであろうエホバの証人剣道受講拒否事件において、判旨は「(20条1項の信教の自由を)直接的に侵害するものではない」と述べており、その上で裁量権の逸脱・濫用の有無を検討して原級留置・退学処分の違法性を検討しているのです。

判例百選も確認しました。

※アガルートの論証も、判例が20条1項違反と明言しているわけではないとの注意書きあり。

じゃあ一体憲法何条の何権の侵害なんだよ、って現場で焦りました(信教の自由に決まってる)。

20条1項の信教の自由について、最高裁はあまり立ち入りたくないのだろうか…。迂闊に保護領域を認めると、かえって信教の自由を制約する結果になるのか?信教の自由の保護領域の認定は、とてつもなく難しい理論的問題を孕んでいるのか?などと考え、20条1項で勝負するのに恐怖を感じてしまいました。

そして、エホバの証人輸血拒否事件に思いを馳せ、宗教上の理由で13条を根拠に人格権が認められていたはずだから、これに合わせて論述しよう、最高裁が認めているし、本問も真摯な宗教上の理由に基づくものだから人格権でもいいだろうという意図のもと、13条を根拠に「人前で肌を露出しない自由」を人格権として導き、これに対する制約の有無(間接的な制約)及び違憲審査基準(裁量権の逸脱・濫用)を述べ、考慮不尽等の有無について事実を引用しつつ評価するよう心がけました。

裁量権の逸脱・濫用のところで、「仮に代替措置を講じた場合、政教分離(20条3項)に反するか問題となるも、国と宗教との関わり合いが相当と認められる限度を超えるものではないから政教分離に反しない、などと述べておくべきでした。

外国人の人権についても、一言触れておくべきだったと思います。

なお、「違憲な行為」については、「調査書に3年間2という低評価をつけ続けたこと」とした上、代替措置の話は裁量権の逸脱・濫用のところで論述するようにしました。エホバの証人剣道受講拒否事件と同じような形です。