青藍メモ

青藍メモ

令和元年司法試験予備試験論文式試験の答案を晒すブログです。

憲法 令和元年司法試験予備試験論文式試験

はじめに

青藍です。

予備試験の短答式試験・論文模試の結果と論文本試験の結果との相関関係について探るべく、私の再現答案を晒します。

短答・論文模試の結果等

総合

短答 191点(法律158、教養33、340番台)

塾 260番台/602人

辰巳 90番台/311人

憲法

短答 18点

塾 60番台/602人

辰巳 30番台/311人

再現答案(3.8枚程度)

第1 Xとしては、甲市立乙中学校がXの調査書における3年間の保健体育の成績をいずれも「2」としたことは、Xの人格権を侵害するものであり、憲法(以下、法名略)13条に反し違憲である旨主張する。

1 Xは、宗教上の理由により肌を露出できない。ここで、人前で肌を露出しない自由が13条により保障されるかを検討する。

 13条は、「生命、身体及び幸福追求に対する国民の権利については、公共の福祉に反しない限り、立法その他の国政の上で、最大の尊重を必要とする。」とある。そのため、「Xの肌を露出しない自由」も人格権として保護されそうである。

 ここで、「人格権」という文言は憲法上の規定になく、かかる権利は認められないとの反論が考えられる。

 しかし、国民は、基本的人権の享有を妨げられず(11条)、憲法が国民に保障する自由及び権利は、国民の不断の努力によって、これを保障しなければならない(12条)とされており、明文なき権利であっても、憲法上の権利として13条を根拠に認めることができると解する。ただし、これを無制限に認めると他の人権が十分に保障されなくなるおそれがある。そのため、人格権を認めるためには、当該利益がその者の内的世界の根幹にかかわるような重要なものである必要がある。

 本件について見るに、Xは、B教の信者であり、宗教はその者の内的世界の根幹を基礎付けるものである。そして、B教の重要な戒律として、女性は人前で肌を露出してはならないとされている。このことからすると、Xにとって、人前で肌を露出しない自由は、自己の内的世界の根幹にかかわる重要な利益といえるから、人格権として13条により保障される。

2 Xは、3年間を通じて調査書における保健体育の成績を、5段階評定で低い方から2段階目の「2」という低評価を受けている。Xは運動を比較的得意としており、この評価には水泳の授業への不参加が影響していることは明らかであり、学校側もこれを認めている。したがって、Xの人格権に対し、間接的な制約が認められる。

3 それでは、かかる制約は認められるか。憲法上の人権であっても無制限に認められるものではなく、公共の福祉(13条)による制限を受けるため、違憲審査基準が問題となる。

(1)人格権は重要な利益であるため、厳格な基準が妥当するようにも思える。しかし、学校教育においては専門技術的な判断が必要不可欠であるから、校長に広範な裁量権が認められる。したがって、裁量権の行使として全く事実の基礎を欠くか、社会通念上著しく合理性を欠き、裁量権の逸脱・濫用といえる場合には、違憲となると考える。その判断においては、考慮不尽、他事考慮、平等原則違反、比例原則違反といった事情を考慮する。

(2)本件について見るに、校長は、水泳授業の代替措置を講じるというXの要望が真に信仰上の理由によるものか判断が困難であるとしている。しかし、Xの代替措置の要望が真摯なものであるかどうかは、本人やその家族への面談等を通じて容易に知ることができるものであり、この点で考慮不尽が認められる。

 また、校長は、代替措置を講じた場合、他の女子生徒も同様の要望を行い、水泳授業の実施や成績評価に支障が生ずるおそれがあると主張する。しかし、甲市においてはA国出身の外国人が急増し、乙中学校においては、生徒の4分の1がA国民である。そして、A国民のほとんどはB教の信者である。とすると、乙中学校における生徒の4分の1近くの者がB教の信者であると考えられ、それだけ多くの者がB教の信者であるならば、これらの者に対し代替措置を講ずる等の一定の配慮をすることは、公平性を害するものでなく、むしろ公平の理念にかなったものである。したがって、この点でも考慮不尽が認められる。

 更に、Xは、水泳の授業を自主的に見学の上、教師にレポートを提出し、担当教員がこれを受領しているにもかかわらず、成績評価の際にこれを考慮しなかった。この点において考慮不尽が認められる。

 また、水泳の授業への不参加を理由として、運動が得意なXに対し、3年間に渡り下から2段階目の「2」の評価をつけ続けたことは、比例原則違反である。

 以上より、乙中学校がXに対し3年間に渡り保健体育の成績を「2」とし続けたことは、社会通念上著しく妥当性を欠くものであり、校長の裁量権の逸脱・濫用があったといえる。

3 以上より、乙中学校がXの調査書における保健体育の成績を3年間に渡り「2」とし続けたことは、Xの人格権を侵害するものであり、13条に反し、違憲である。

                                    以上

現場での思考

憲法については、人権認定の部分で非常に悩みました。

というのも、問題文を見て20条1項の信教の自由でいこうと思ったのですが…。

はじめにお断りしておくと、本問は20条1項でいくべきだったと激しく後悔しています。受験生の大多数がそのように書いていますし、アガルートの論証でもそのように論述していますので。

しかし、本問の題材となったであろうエホバの証人剣道受講拒否事件において、判旨は「(20条1項の信教の自由を)直接的に侵害するものではない」と述べており、その上で裁量権の逸脱・濫用の有無を検討して原級留置・退学処分の違法性を検討しているのです。

判例百選も確認しました。

※アガルートの論証も、判例が20条1項違反と明言しているわけではないとの注意書きあり。

じゃあ一体憲法何条の何権の侵害なんだよ、って現場で焦りました(信教の自由に決まってる)。

20条1項の信教の自由について、最高裁はあまり立ち入りたくないのだろうか…。迂闊に保護領域を認めると、かえって信教の自由を制約する結果になるのか?信教の自由の保護領域の認定は、とてつもなく難しい理論的問題を孕んでいるのか?などと考え、20条1項で勝負するのに恐怖を感じてしまいました。

そして、エホバの証人輸血拒否事件に思いを馳せ、宗教上の理由で13条を根拠に人格権が認められていたはずだから、これに合わせて論述しよう、最高裁が認めているし、本問も真摯な宗教上の理由に基づくものだから人格権でもいいだろうという意図のもと、13条を根拠に「人前で肌を露出しない自由」を人格権として導き、これに対する制約の有無(間接的な制約)及び違憲審査基準(裁量権の逸脱・濫用)を述べ、考慮不尽等の有無について事実を引用しつつ評価するよう心がけました。

裁量権の逸脱・濫用のところで、「仮に代替措置を講じた場合、政教分離(20条3項)に反するか問題となるも、国と宗教との関わり合いが相当と認められる限度を超えるものではないから政教分離に反しない、などと述べておくべきでした。

外国人の人権についても、一言触れておくべきだったと思います。

なお、「違憲な行為」については、「調査書に3年間2という低評価をつけ続けたこと」とした上、代替措置の話は裁量権の逸脱・濫用のところで論述するようにしました。エホバの証人剣道受講拒否事件と同じような形です。