青藍メモ

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令和元年司法試験予備試験論文式試験の答案を晒すブログです。

民事実務 令和元年司法試験予備試験論文式試験

はじめに

青藍です。

予備試験の短答式試験・論文模試の結果と論文本試験の結果との相関関係について探るべく、私の再現答案を晒します。

短答・論文模試の結果等

総合

短答 191点(法律158、教養33、340番台)

塾 260番台/602人

辰巳 90番台/311人

民事実務

塾 120番台/602人

辰巳 130番台/311人

 

再現答案(3.8枚)

第1 設問1

1 小問(1)

 本件訴訟における訴訟物は、①保証契約に基づく保証債務履行請求権及び②①に基づく遅延損害金賠償請求権である。

 訴訟物とは、当事者間における権利義務ないし法律関係の存否であり、その個数の判断は、基準として簡明であるため請求権ごとによるのが妥当である。本件において、XはYに対し保証債務(民法(以下、法名略)446条1項)の履行を求めており、これが①の訴訟物となる。また、遅延損害金について約定利率がある場合、これが法定利率たる年5分(404条)を超えるときは約定利率による(419条1項但書)。Yの保証債務について、主たる債務であるBの貸金返還債務の遅延損害金は年10分であり、保証債務の遅延損害金も、417条1項により年10分となるため、これは法定利率たる年10分を超える。したがって、XのYに対する約定利率たる年10分の割合による遅延損害金賠償請求権が、②の訴訟物となる。

2 小問(2)

 Pが、本件訴訟において記載すべき請求の趣旨は、「Yは、Xに対し、金200万円及びこれに対する平成30年6月15日から支払済みまで年10分の割合による金員を支払え。」である。「債務の履行について確定期限があるときは、債務者は、その期限の到来したときから遅滞の責任を負う」とされており(412条1項)、Bに対する貸金債権の弁済期は平成30年6月15日という確定期限の定めがあり、この日より遅滞の責任を負うからである。

3 小問(3)

(1)①に入る具体的事実は、「本件貸付に係る保証契約を書面により締結した。」である。保証契約は、書面でしなければ効力を生じないからである(446条2項)。

(2)②に入る具体的事実は「保証契約」、③に入る事実は「連帯保証」である。本件借用証書には「Yが、BのAからの上記借り入れにつき、Aに対し、Bと連帯して保証する」旨の連帯保証の特約が付されており(454条)、Xはこれを主張することにより、Yの催告の抗弁(452条)、検索の抗弁(453条)を封じることができるからである。

(3)④に入る具体的事実は「15日、Aには、Bに対しAからXへ本件貸付に係る貸金債権及び遅延損害金債権を譲渡した旨通知した」である。467条1項により、債権譲渡を債務者たるBに対抗するには、譲渡人たるAから債務者であるBに債権譲渡があった旨通知をすれば足り、通知が債務者に到達した時点で通知がなされたことになるからである。

4 小問(4)

 Pとしては、Yの有する唯一のめぼしい財産である甲土地について不動産執行(民事執行法43条1項)を行い、その競売代金から弁済を受けるよう手続を進めるべきである。そのために、Pは、裁判所に対し、甲土地について不動産に対する仮差押えの執行の申立て(民事保全法47条1項)をすべきである。

第2 設問2

1 小問(1)

(1)①について、Qは、本件答弁書において、本件貸付に係る貸金債権には譲渡禁止特約が付されていた旨の抗弁を記載する。

(2)②について、債権は、譲り渡すことができるのが原則であるところ(466条1項)、当事者が反対の意思、即ち譲渡禁止特約を付した場合、これは適用されないからである(466条1項)。

2 小問(2)

 [  ]に入る事実は、「Bは、Xの承諾を得た」である(482条)。

3 小問(3)

(1)①について、BがXにに対し本件絵画を引き渡したことに係る事実を主張することは、必要である。

(2)②について、本件絵画をBがXに引き渡したことは、代物弁済にあたるところ、482条においては「他の給付をしたとき」と定められており、この文言からして代物弁済が効力を生じるには、物の現実の給付が必要と解されるからである。

第3 設問3

1 ①について、Qは本件答弁書においてYの言い分を抗弁として主張すべきでないと考える。

2 ②について、Yの言い分は、本件貸付に係る貸金債権の譲渡について、AからYに対する通知又はYの承諾がない限り、Xは債権譲渡を対抗できないとするものであり、Yが467条1項の「債務者」にあたることを前提にしていると解される。

 しかし、保証債務の範囲は、主たる債務に依存するものであり(447条1項)、債権譲渡に係る通知又は承諾の有無は、あくまで主たる債務者において決せられるものである。そのため、保証人たるYは467条1項の「債務者」にあたらず、Yの主張は抗弁を構成しないため、失当である。

第4 設問4

1 Pは、準備書面において、本件借用証書が真正に成立したものであり、Yが保証契約を締結した事実が認められると主張するべきである。

2 まず、文書は、その成立が真正であることを証明しなければならない(民事訴訟法(以下、民訴法)228条1項。そして、私文書は、押印があるときは、真正に成立したものと法律上推定される(民訴法228条4項)。ここで、法律上の推定が働くためには、押印が自己の意思に基づくものである必要があるところ、我が国の取引慣行上、印章は本人以外は所持し得ないのが通常である。したがって、私文書に本人の押印があるときは、それが本人の意志に基づくものであることが事実上推定され(1段目の推定)、本人の意志に基づく押印があれば、その文書が本人の意思・観念を表示したものと法律上推定される(2段目の推定)。これを合わせて2段の推定という。

 そして、本件借用証書のY作成部分に付き、Y名下の印影がYの印章によるものであることに争いはなく、2段の推定が働くので、本件借用証書が真正に成立したことが推定される。

3 ここで、Qは、は、BがYの印章を盗用したと述べ、押印がYの意思に基づくものでないこと、即ち1段目の推定の部分について争っている。盗用の事実を経験則上推認させる事実として、Yと疎遠であったBが、本件借用証書が作成された直前期である平成29年8月中旬に急にYの家に泊まりにきたこと、BはYの印鑑を容易に見つけることができ、BがY宅で1人となった時間があるため盗用が可能でああったことを述べている。

 しかし、平成29年8月下旬、AがYの自宅に電話した際、Yの母親という利害関係のない第三者が「Yからそのように聞いている」と延べ、「そのような話」とは「Yが保証をしたこと」である。したがって、Pはかかる事情を主張してBによる印章の盗用などはなかったと反論すべきである。 以上

現場での思考

遅延損害金や連帯保証、譲渡禁止特約、代物弁済等に対する攻撃・防御方法の理解が問われてしまい、嫌な部分を多く聞かれてしまったなという印象です。

また、試験委員は本当に2段の推定を出すのが好きだなあと感じました。それだけ題材として取り上げやすい話なのかと思います。

連帯保証については、論文模試でも出題されていました。

そもそも連帯保証の特約は、相手方の催告の抗弁・検索の抗弁に対する再抗弁として提出されるのが一般的だと理解しております。

現場では、請求原因において連帯保証の特約の記載は不要だろうと思ったのですが、そうすると連帯保証の特約について答案に示す機会がなくなり、また、実務上でも本来は再抗弁にあたる連帯保証の特約を請求原因において先出しすることで、相手方の催告の抗弁・検索の抗弁を封殺してしまうという方法がしばしば取られるようなので、請求原因に連帯保証の特約を書くことにしました(かなり心理的抵抗がありました)。

2段の推定においては、「押印」の部分に絞って論述をしました。

本件借用証書にはYの署名もあるようですが、「署名」については1段目の推定が及ばず、自己の意思に基づく署名であることを主張・立証しなければならないところ、本問では「署名」が自己の意思に基づくことを基礎づける事情を抽出できませんでした。

また、本問では借用証書の印影がYの印章によるものであることに争いはないため、これによって2段の推定が既に働いており、Qはこの推定を覆すべく、1段目の推定を争う姿勢と思われますので、その点に議論の焦点をおいて論述するよう心がけました。