青藍メモ

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令和元年司法試験予備試験論文式試験の答案を晒すブログです。

刑法 令和元年司法試験予備試験論文式試験

はじめに

青藍です。

予備試験の短答式試験・論文模試の結果と論文本試験の結果との相関関係について探るべく、私の再現答案を晒します。

短答・論文模試等の結果

総合

短答 191点(法律158、教養33、340位)

塾 260番台/602人

辰巳 90番台/311人

刑法

短答 24点

塾 250番台/602人

辰巳 40番台/311人

 

再現答案(3.8枚)

第1 業務上横領罪

 甲が、Aとの間で、本件土地の所有権をAに移転させる合意をした行為について、業務上横領罪(刑法(以下、法名略)253条)が成立しないか。

1 「業務」とは、社会通念上反復・継続して行う事務をいう。

 甲は不動産業者であり、社会通念上反復・継続して他人の不動産を占有する業務を行う者であるから、「業務」の要件をみたす。

2 「自己の占有する」とは、事実上の支配のみならず、法律上の支配も含む。

 甲は、Vから本件土地に抵当権を設定してほしい旨の依頼を受け、同依頼に係る代理権を付与され、本件土地の登記済証や委任事項欄の記載がない白紙委任状等を預かっている。このことから、甲は、本件土地について法律上の支配を及ぼしているといえるから、「自己の占有する」の要件をみたす。

3 「他人の物」とは他人の所有する財物であり、本件土地はXの所有の不動産という財物であるため、「他人の物」の要件をみたす。

4 「横領」とは不法領得の意思の発現たる一切の行為をいい、具体的には、権利者でなければできない処分をする行為をいう。

 甲は、某月5日、Aにとの間で本件土地の所有権を同月16日に移転させる旨の合意をしており、これは本件土地の所有権者であるVでなければできない処分といえるから、不法領得の意思の発現たる行為があったといえ、「横領」にあたる。

 なお、16日に所有権を移転する旨の合意であったため、5日の時点では本件土地の所有権がAに移転しておらず、表見代理も成立しないため、Vの本件土地に対する所有権は害されていないようにも思える。しかし、所有権の移転時期が到来していなくても、甲のAとの合意により、VとAとの間で本件土地の権利関係に関する紛争が生じるのは明白であるから、5日の合意の時点で実質的にVの本件土地に対する所有権が害されたといえ、この時点で横領の既遂となる。

5 甲には、不法領得の意思及び故意(38条1項)も認められる。

6 以上より、甲に業務上横領罪が成立する。

第2 有印私文書偽造

 甲が、本件売買契約書2部の売主欄にいずれも「V代理人甲」と記載した行為について、有印私文書偽造罪(159条1項)が成立しないか。

1 「行使の目的」とは、真正な文書として利用する意思をいい、甲にはこれが認められる。

2 甲は、後述するように「V代理人甲」と「署名」している。

3「事実証明に関する文書」とは、実社会生活上交渉を有する事項について証明する文書であるところ、本件売買契約書はこれにあたる。

4 「偽造」とは、本罪の保護法益が文書に対する社会の信頼であることに照らせば、文書の名義人と作成者との間に不一致を生じさせることをいう。名義人の判断は、文書の記載のみならず、文書の性質も踏まえて行う。

 本件土地の売買契約書の売主欄には「V代理人甲」との記載があるところ、土地の売買契約書という性質も考えると、この売主欄には、「適法にVから代理権が授与された甲」による署名が予定されているものである。したがって、本件売買契約書の意思・観念の主体たる名義人は「適法にVから代理権が授与された甲」であり、作成者は「無権代理人にすぎない甲」であるため、両者に不一致が生じている。したがって、甲は「偽造」したといえる。

5 甲には本罪の故意も認められる。

6 以上より、甲には有印私文書偽造罪が成立する。

第3 有印偽造私文書行使罪

 甲は、本件売買契約書を真正なものとしてAに渡しており、故意もあるので、かかる甲の行為について有印私文書行使罪(161条)が成立する。

第4 強盗殺人罪

 甲が、不動産業の免許取り消し等を免れるため、Vの首をロープで絞めた上海中に捨て、Vを溺死させた行為について、強盗殺人罪(240条、236条2項)が成立しないか。

1 「暴行又は脅迫」(236条2項、同条1項)とは、人の反抗を抑圧するに足りる有形力の行使又は害悪の告知をいう。

 甲は、Vの首を力いっぱいロープで絞めており、これは人の反抗を抑圧するに足りる有形力の行使といえるから、本罪の「暴行」にあたる。

2 「財産上不法の利益」とは、財物以外の一切の財産的利益をいう。

 甲は、Vを殺害することにより、勝手に本件土地をAに売却したことに対するVによる追求を逃れ、不動産業の免許の取消し及びVに対する民事上の責任(民法709条、415条等)を免れることができるので、財物以外の財産上の利益を得たといえるため、「財産上不法の利益」を得たといえる。

3 甲がVを海に落としたことにより、Vという「人」を溺「死」させている。

4 甲に故意が認められるか。甲がVを海に落としたとき、甲はVが既に死亡していると誤信しており、実際にはVは生きていたため、因果関係の錯誤が問題となる。

 この場合、行為の有する危険が結果に現実化したといえる場合には故意が認められ、その判断においては犯人の計画も考慮すると考える。

 本件について、甲は、Vをロープで絞殺して海に落とすという計画のもと、Vの首をロープで絞め、その後海に落としている。かかる甲の計画を考慮すると、行為の有する危険が結果に現実化したといえる。したがって、甲には本罪の故意が認められる。なお、240条には「よって」の文言がないため、本罪は殺意ある場合も含まれる。

5 よって、甲には強盗殺人罪が成立する。

第5 罪数

 以上より、甲には①業務上横領罪、②有印私文書偽造罪、③有印偽造私文書行使罪、④強盗殺人罪が成立し、②と③は牽連犯(54条1項後段)の関係に立ち、これと①及び④は併合罪(45条前段)の関係に立つ。 以上

現場での思考

業務上横領罪の成否を検討するにあたり、本件土地の所有権がAに移転するのは合意時ではなく将来であるという事情をどのように使うか悩みました。

強盗殺人罪で、「財産上不法の利益」の認定を悩みました。甲は「不動産業の免許取り消しを免れたい」と言っていましたが、口封じすれば免許の取消しを免れるという必然性はあるのだろうか…?と不安になり、これだけで利得を認定するには心細く感じました。

そこで、元々甲はVに依頼を受けて(委任とかでしょうか?)本件土地に抵当権を設定することになっており、甲が勝手に本件土地をAに売り払ったことについてVは立腹していたようなので、表見代理の成立が否定されるにせよ、甲のVに対する何らかの民事上の責任(慰謝料?709条、債務不履行?415条)が発生するのではないかと考えました。それで、Vを殺せばVに対する民事上の責任も追求されるおそれがなくなるから、利得をありにしてしまおうと思いました。

その他、各罪の構成要件要素についてはねちっこく抽出・定義づけ・あてはめをするように心がけ、240条に殺意ある場合を含むか否か、因果関係の錯誤についても触れました。

個々の論証について乱暴な点が多々ありますが、現場ではこれが精一杯で、答案もほぼ全部埋まってしまい、これ以上書くスペースがありませんでした。