青藍メモ

青藍メモ

令和元年司法試験予備試験論文式試験の答案を晒すブログです。

民事訴訟法 令和元年司法試験予備試験論文式試験

はじめに

青藍です。

予備試験の短答式試験・論文模試の結果と論文本試験の結果との相関関係について探るべく、私の再現答案を晒します。

短答・論文模試の結果等

総合

短答 191点(法律158、教養33、340番台)

塾 260番台/602人

辰巳 90番台/311人 

民訴法

短答 24点

塾 430番台/602人

辰巳 200番台/311人

再現答案(2.0枚)

第1 設問1

 本問において、X1はYに訴状が送達される前、即ち訴訟係属前に死亡していることから、本件訴訟は訴訟要件を欠き、Yは「本件訴えは却下されるべきである。」と主張していると解される。

 そこで、X2としては、自己がX1の選定当事者(民事訴訟法(以下、法名略)30条1項)にあたり、訴訟は有効に係属していると主張する。

1 「共同の利益を有する多数の者」の意義が問題となるも、訴訟信託が禁止され、弁護士代理の原則(54条1項)がとられていることを考えると、「共同の利益を有する多数の者」とは、同一の事実関係及び法律関係に基づく利益を有するものであって、訴訟信託の禁止及び弁護士代理の原則の趣旨に反するおそれのない者をいうと解される。

2 本件について見るに、X1らは、Yとの間で甲土地の売買契約を締結しており、同一の相手方かつ同一の目的物を対象とした、同一の事実関係及び法律関係に基づく利益を有する者同士といえる。そして、X1は、自宅兼店舗を建築する予定で甲土地を購入しており、X1は、X2に事業を引き継がせようと考えていた。そのため、X1とX2との間では利益が相反する関係になく、共通の利益を有する者同士であるといえる。

 そして、X2は本件訴えの提起前から弁護士との打合せを行っており、弁護士代理の原則や訴訟信託の禁止の趣旨にも反しない。

 更に、X1は体調が優れなかったため訴訟対応をX2に任せたのであり、X2による訴訟追行を認める必要性および許容性もある。

 したがって、X1とX2は「共同の利益を有する多数の者」にあたる。

3 「選定」があったか問題となるも、X1はX2に訴訟への対応を任せてあり、X2も「X1から自分に訴訟対応を任された」との認識があったため、黙示の「選定」があったといえる。

4 以上より、X2はX1の選定当事者であるため、Y1に訴状が送達される前にX1が死亡していたとしても、X2は単独で訴訟追行することができ、訴訟要件に欠けるところはないから、本件訴えは却下されるべきではない。

第2 設問2

1 確定判決は、主文に包含されるものに限り、規範力を有する(114条1項)。既判力とは、前訴確定判決後の後訴における通用力であり、その客観的範囲は、訴訟物たる権利義務関係の存否に限られる。

2 そして、確定判決は、「前2号に掲げる者の口頭弁論終結後の承継人」にも及ぶ(115条1項3号)。「承継人」とは当事者から紛争の主体たる地位を承継した者をいう。

 Zは、Yから甲土地の贈与を受けたものであり、甲土地に関する紛争の主体たる地位をYから承継した者といえ、「承継人」にあたり、かつ、口頭弁論集結「前」に贈与を受けているから、Zには前訴判決の効力が及ばないようにも思える。

 しかし、Bは強制執行を免れる目的で、Zと通謀の上、甲土地をYからZに贈与させている。そして、BはYの代表取締役であり、ZはBの息子であるから、ZはYと同視でき、115条1項1号の「当事者」として前訴判決の既判力が及ぶ。 以上

 

現場での思考

設問1

訴訟係属は、被告への訴状送達時に生じます。

本問ではYへの訴状送達前にX1が死亡しており、そもそもX1との関係では訴訟は係属いないとも考えられるため、これを克服する理論構成が必要であると考えました。

そこで、X1が死亡しても訴訟が係属しているといえるためには、X2がX1を訴訟担当していることが必要ではないかと考えました。

法定訴訟担当か任意的訴訟担当かについては、本問では選定当事者の制度が使えそうであり、明文の規定が使える場合にはそれによる方がいいのではないかという考えのもと、選定当事者について論述しました。

しかし、選定当事者については知識が不十分であったため、論証がいかにもその場ででっち上げましたというようなお粗末なものになってしまい、良い評価を得ることは難しいだろうなと思いました。

原告複数の場合なので、固有必要的共同訴訟や通常共同訴訟の話なのかなとも迷いました。

しかし、本件訴えの訴訟物は売買契約に基づく所有権移転登記手続請求であり、共有権の確認の訴えなどではないので、固有の話には立ち入りませんでした。

また、本件訴えが通常共同訴訟であるにせよ、そもそも訴訟係属が生じているかが問題となっているのではないかと考えたので、通常共同訴訟の要件具備については立ち入りませんでした。

本当はもっと色々と論ずるべきなのでしょうが、私の知識ではこの答案が精一杯でした。

設問2

問題文を見た瞬間、これは他の受験生も悩むだろうなと思いました。

最も試験時間が長い民事系科目の最後の最後の問題で「信義則も争点効も使うな、それを前提に考えろ」というのは、あまりにも厳しすぎます。

本問を上手に論述できる受験生の方々を尊敬します。普段どのように勉強しているのか知りたいです。

商法 令和元年司法試験予備試験論文式試験

はじめに

青藍です。

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短答・論文模試の結果等

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短答 191点(法律158、教養33、340番台)

塾 260番台/602人

辰巳 90番台/311人

商法

短答 20点

塾 320番台/602人

辰巳 70番台/311人

再現答案(3.7枚)

第1 設問1

 Dとしては、取締役からの解任を目的とする臨時株主総会の開催が法令に違反するとして、会社法(以下、法名略)360条1項に基づき、臨時株主総会の開催を差し止め、その中で本件取締役会決議の効力を争うことが考えられるが、これは認められるか。

1 甲社は、種類株式発行会社ではなく、その定款には、譲渡による甲社株式の取得について甲社の取締役会の承認を得る旨の定めがあるため、2条5号の「公開会社」にあたらず、「公開会社でない株式会社」として360条2項の適用がある、また、甲社ではFが監査役を務めており、甲社は「監査役設置会社」(2条9号)にあたるので、360条3項の適用がある。以上を前提に検討する。

2 Dは、甲社の株式を有しており、「株主」(360条2項、1項)にあたる。

3 甲社は取締役会設置会社であるため、株主総会の招集の決定においては、取締役会の決議によらなければならない(298条4項、同条1項)。

(1)ここで、瑕疵ある取締役会決議が無効であるとすると、本件の臨時株主総会の招集は取締役会決議を欠くこととなり、298条4項という「法令」の違反があるといえる。ここで瑕疵ある取締役会決議の効力が問題となる。

 株主総会決議の無効事由が法定されている一方(830条1項、2項)、瑕疵ある取締役会決議の効力が定められていないのは、法はこれを一律に無効とする趣旨と解される。したがって、瑕疵ある取締役会決議は無効となる。

(2)本件取締役会決議の瑕疵の有無について検討する。Cは、Dが本件取締役会の決議について特別の利害関係を有することを理由に、Dを議決に参加させておらず、これは369条2項の「特別の利害関係を有する取締役」を根拠とすると解される。

 ここで、369条の趣旨は、決議に対し不当な影響を与えるおそれのある者が決議に参加することにより、取締役会における社会経済上健全な意思形成が阻害されるのを防止する点にある。とすると、このようなおそれのない者であれば、369条2項の「特別の利害関係を有する取締役」にあたらない。

 甲社において、CとDは経営方針をめぐって対立しており、Cは、Dを甲社の経営から排除しようという個人的な事情の下、Dを解任しようとしている。そして、Dも甲社の取締役であるため、甲社の経営方針や自己の選解任について意見を述べることができる。とすると、Dを決議に参加させても、取締役会における社会経済上健全な意思形成が阻害されるおそれがあるとはいえない。また、Dが決議に参加し意見を述べていれば、Eも翻意してDの解任に反対した可能性も否定できない。

 したがって、Dが「特別の利害関係を有する取締役」にあたらず、Dを排除して行われた本件株主総会決議は瑕疵あるものとして無効となる。

(3)とすると、本件の臨時株主総会決議の招集は、取締役会決議を欠くものとして298条4項に反し、「法令」に違反する行為をするおそれがあるといえる。

 

3 それでは、甲社に「回復することができない損害」(360条3項、1項)が生ずるおそれがあるといえるか。

 Cは、その経営手腕の未熟さにより、甲社に多額の損失を生じさせている。そして、本件臨時株主総会が開催され、Dが解任されると、Cを止める者がいなくなり、甲社の損失は拡大しそうである。しかし、これは金銭賠償が不可能とはいえず、「回復不可能な損害」にあたらない。

4 よって、Dの請求は認められない。

第2 設問2

 Dとしては、丙社が取得した甲社株式40株について議決権の行使を認めずに行われた本件株主総会決議は、決議の方法に法令の違反があるとして、831条1項1号に基づき、本件株主総会決議の取消しの訴えを提起することが考えられるが、これは認められるか。

1 Dは甲社株式を有しているので、「株主等」にあたる。

2 「決議の方法」に「法令」の違反があったといえるか。甲社の定款では甲社株式の取得について甲社の取締役会の承認を要する旨の定めがあり、丙社が本件会社分割により承継した甲社株式40株については、取締役会の承認を得ていないため、丙社は甲社株主としての地位を甲社に対抗できないのではないか、問題となる。

 株式の譲渡制限の趣旨は、会社の経営に好ましくない者を排除する点にあるところ、丙社は既存株主であるDが全株式を有し、代表取締役を務める会社であり、丙社を株主として認めても、会社経営上好ましくない者が株主になるわけではない。それにもかかわらず、Cは丙社に対し株主名簿の名義書換を拒絶しており、これは不当拒絶にあたる。

 したがって、本件株主総会決議において丙社の有する株式につき議決権の行使を認めなかったことは、法309条1項に反し、「決議の方法」の「法令」違反が認められる。

3 よって、Dの請求は認められる。 以上

現場での思考

「公開会社」「監査役設置会社」「株主」など、論点にもならない前提事実につき、ねちっこく条文をあげるように心がけました。

設問1

問題文を見て、「解任される取締役は「特別利害関係人」にあたるのが判例では…?」と思いました。それを前提とすると、本件取締役会決議に瑕疵はなく、Dの請求は認められないことになりそうです。

しかし、そのように解してしまうと、360条における各要件該当性について論じる実益がなくなり、書くことがなくなってしまうと思いました。

そこで、答案政策上の理由により、Dは「特別の利害関係を有する取締役」にあたらないとするべく、もがき苦しみました。論証について乱暴になってしまい、説得力のある答案とはいえないと思えます。

設問2

名義書換の拒否が不当拒絶にあたることを論ずるにあたり、株主名簿の名義書換にまつわる関連条文などを丁寧にひくべきでした。また、時間が厳しくなってしまい、あてはめが充実していません。三段論法もできていません。

設問1、設問2を通じて、本件が「小規模閉鎖会社におけるお家騒動」であるという事情をうまく答案に活かせなかったのが残念です。

 

民法 令和元年司法試験予備試験論文式試験

はじめに

青藍です。

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短答・論文模試の結果等

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短答 191点(法律158、教養33、340番台)

塾 260番台/602人

辰巳 90番台/311人

民法

塾80番台/602人

辰巳 80番台/311人

再現答案(3.5枚)

第1 設問1

 DはCに対し、本件土地の所有権(民法(以下、法名略)206条)に基づく建物収去土地明渡請求をすることが考えられるが、これは認められるか。①原告所有、②被告占有が要件となるため、以下検討する。

1 ①原告所有

 平成20年4月1日以前において、Aが本件土地の所有権を有していたことにつきDC間に争いないと思われ、この点で権利自白が認められる。

 そして、平成28年3月15日にAは「死亡」し、相続が開始した(882条)。そして、Bは相続人たるAの「子」であり、唯一の「相続人」である(887条1項)。「相続人」たるBは「相続開始の時から、被相続人に属した一切の権利義務を承継する」(896条)ので、Bは、Aから高土地の所有権を承継したといえる。

 平成28年6月1日、Bは、本件債務の担保のため、Dを抵当権者として抵当権(369条1項)の設定をした。平成29年3月1日、Dは、本件土地について抵当権の実行として競売の申立てをし、Dは自ら本件土地を950万円で買い(555条)受けた。

 したがって、Dは本件土地を所有しており、①原告所有の要件をみたす。

2 ②被告占有

 Cは、本件土地上にCを所有権者とする所有権の保存登記がされた本件建物を建築し、これに居住しているので、本件土地を事実上支配しているといえ、②被告占有の要件をみたす。

 したがって、DのCに対する請求は認められそうである。

3 ここで、Cは自己が177条の「第三者」にあたり、Dが対抗要件を備えるまで、Dを本件土地の所有者として認めないと主張する。

 177条の「第三者」とは、当事者及びその包括承継人以外の者で登記の欠缺を主張するにつき正当な利益を有する者をいう。

 平成20年4月1日、AはCに本件土地を贈与(549条)しており、同日、本件土地はCに引き渡されているため、贈与の不可撤回効(550条但書)も生じている。そのため、Cは本件土地の登記の欠缺を主張するにつき正当な利益を有する者であり、177条の「第三者」にあたる。

 しかし、Dは、平成29年12月1日、本件土地についてDへの所有権移転登記を経ており、対抗要件を備えている。したがって、Cの主張は認められない。

4 そこで、Cのとして法定地上権(388条)が成立するとして、本件土地の占有権原があると主張する。

 しかし、法定地上権の成立には「土地及びその上に存する建物が同一の所有者に属する場合」である必要があるところ、Cは本件土地の所有権をDをに対抗できないのは先述の通りであるから、「土地及びその上に存する建物が同一の所有者に属する場合」にあたらず、法定地上権は成立しない。

5 そこで、Cは本件土地についてBとの間で黙示の賃貸借契約(601条)が成立しており、これは建物所有を目的としたものであるから、借地借家法2条1号の「借地権」にあたり、同法10条1項により、本件土地上に登記済みの本件建物を所有するCは自己の借地権をDに対抗できると主張する。

 しかし、賃貸借契約の成立には「賃料」支払いの合意が必要であるところ、BC間でそのような合意がされた事情は見当たらず、黙示の賃貸借契約は成立しない。これはCD間でも同様であり、Dが本件土地を対抗力のある借地権があるものとしてその担保価値を評価したことは、結論に影響を及ぼさない。

 したがって、Cの反論は認められない。

6 以上より、DのCに対する請求は認められる。

第2 設問2

 CはDに対し、本件土地の所有権(206条)に基づく妨害排除請求権としての抵当権設定登記の抹消登記手続請求をすることが考えられるが、認められるか。①原告所有、②被告占有が要件となるため検討する。

1 ①原告所有

 平成20年4月1日、AはCはに対し本件土地を贈与(549条)しており、①原告所有の要件をみたす。

2 ②被告占有

 Dは本件土地上にD名義の抵当権設定登記を有しており、②被告占有の要件をみたす。したがって、Cの請求は認められそうである。

3 ここで、Dとしては、自己が177条の「第三者」にあたり、Cの本件土地の所有権移転登記に先立ち抵当権設定登記を備えているので、DはCはに対し本件土地に対する抵当権を対抗できると主張する。

 177条の「第三者」とは、当事者及びその包括承継人以外の者であって、登記の欠缺を主張するにつき正当な利益を有する者をいい、Bから本件土地の抵当権の設定を受けたDは、これにあたる。そして、Dは、Cはに先立つ平成28年6月1日に本件土地に抵当権設定の登記を経ている。したがって、Dは、本件土地に対する抵当権をCに対抗できる。

4 よって、CのDに対する請求は認められない。 以上

現場での思考

全体を通じて、贈与、相続、抵当権、売買などの前提となる事実関係及び法律関係についてねちっこく条文をあげることを心がけました。

設問1

現場では、「Cの占有権原無くね…?」と焦りました。

法定地上権についても一応ふれてはみたものの、「CはDに所有権を対抗できないのだから法定地上権も成立しない」という、対抗要件原理主義的な形式的判断にとどまっています。

「慎重に本件土地の担保価値を評価したに過ぎないDの犠牲において、Cのために占有権原を認めてもよいのか」という悩みを、答案上に示せればよかったのかなと思います。

黙示の賃貸借の成立については、そもそも配点があるとは思えず、余事記載なのかなと思いましたが、一応触れておくことにしました。

そんなところで貴重な時間を浪費したツケが、設問2において回ってきます。

設問2

取得時効の成立について検討しないという、やってはならないことをやってしまいました。

設問1においては、時効の成立も答案構成段階で検討しました。その先入観により、設問2において年月日の前提条件が異なっていることに気付けないという大失態を犯してしまいました。

この失敗による教訓を深く胸に刻み、今後に生かしたいと思います。

 

刑事実務 令和元年司法試験予備試験論文式試験

はじめに

青藍です。

予備試験の短答式試験・論文模試の結果と論文本試験の結果との相関関係について探るべく、私の再現答案を晒します。

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短答 191点(法律158、教養33、340番台)

塾 260番台/602人

辰巳 90番台/311人

刑事実務

塾320番台/602人

辰巳 220番台/311人

再現答案(3.0枚)

第1 設問1

1 「裁判所は、…罪障を隠滅すると疑うに足りる相当の理由があるとき」は、被告人(本問では、被疑者)の接見等を禁止することができる(刑事訴訟法(以下、法名略)207条1項、81条1項)。ここで、「罪障を隠滅すると疑うに足りる相当の理由があるとき」の判断は、被疑者の態度や罪証隠滅の動機の有無等を考慮して決する。

2 Aは、⑧Aの警察官面前の弁解録取書において、「私はやっていない」と本件被疑事実を否認している。また、⑨Aの前科調書によると、Aは、平成30年に傷害罪で懲役刑に処せられ、3年間の執行猶予に付された旨が記載されている。本件の被疑事実についてAが有罪判決を受けた場合、刑の執行猶予の必要的取消し(刑法26条1号)を受ける可能性が高い。とすると、Aは本件被疑事実について罪証隠滅を行う動機がある。

 このようなAの否認という態度及び罪証隠滅の動機がある点を考慮すると、Aには「罪障を隠滅すると疑うに足りる相当の理由」があるといえる。以上が裁判官の思考過程である。

第2 設問2

 ③記載のWの警察官面前調書は直接証拠にあたるか。直接証拠とは、公訴事実として記載された具体的事実が被告人によって行われたものであることを直接証明する証拠をいう。以下、A及びBそれぞれについて検討する。

1 Aについて

 ③によると、犯人のうちの1人である「黒色キャップの男」の顔は、キャップのつばの陰になって見えなかった。そのため、「黒色キャップの男」がAであることを直接証明するに至らないから、③はAが犯人であることを直接基礎付ける直接証拠とはならない。

 もっとも、後述するように③はBとの関係では直接証拠になる。そして、犯人であるBと一緒にいた「黒色キャップの男」は、Bと付き合いのある人物であるAであることが、経験則上推認される。したがって、③はAが犯人であることを経験則上推認させる間接証拠となる。もっとも、Aが以外の人物である可能性も否定できないため、その推認力は弱いといえる。

2 Bについて

 犯人のうち、「茶髪の男」について、Wは街灯の明かりもあり、「茶髪の男」の顔をよく見えたと述べている。そして、Wは警察官から20枚の男の写真を見せられ、2番めの写真の男が「茶髪の男」に間違いないと述べた。そして、その写真の男はBであった。このことから、犯人のうち「茶髪の男」はBと同一人物であると認定でき、③はBとの関係では直接証拠にあたる。

第3 設問3

1 Aの弁護人としては、Aが「傘の先端でその腹部を2回突いた」ことについて否認の主張をすべきである。即ち、Aの持っていた傘の先端がVのの腹部にあたったのは、故意によるものではなく、Vのからいきなり肩をつかまれ驚いて勢いよく振り返ったからであり、これは偶然によるものだと主張する。

2「足でその腹部及び脇腹等の上半身を多数蹴る暴行を加え」たことについては正当防衛(刑法36条1項)の主張をすべきである。即ち、Aがかかる行為に及んだのは、VのがAに対し手拳で殴りかかってきたからであり、Aは、自己の身体を守るためやむを得ずにかかる行為に及んだと主張する。

第4 設問4

 下線部㋒に関し、Aの弁護士が無罪を主張したことについて、Aの弁護士はAのから本件被告事件にかかる公訴事実について自分がやったと打ち明けているため、弁護士職務基本規程(以下「規程」という)5条の真実義務に反しないか問題となる。

 しかし、「弁護人は、被疑者および被告人の防御権が保障されている点に鑑み、その権利及び利益を擁護するため、最善の弁護活動に努める」とされており(規程46条)、また、犯罪事実の立証をするのは検察官の役目であるから、かかる場合に無罪の主張をしても、真実義務に反するものでなく、弁護士倫理上の問題はない。

第5 設問5

 検察官が取調べ請求をしようと考えた証拠は、⑫Bの検察官面前の弁解録取書である。弁護人が不同意とした場合、321条1項2号を根拠に、㋓の供述が「Aが何をしていたか見ていない」とする点で⑫と「実質的に異なった供述をした」として、⑫を証拠とすることができる。 以上

現場での思考

全体を通して、あてはめが薄くなってしまったのが残念です。

また、設問2において、③記載のWの警察官面前調書がAの犯人性を基礎づける間接証拠になるのではないかと考えましたが、その推認力の強弱の認定について悩みました。Wの調書単体では、「黒色キャップの男」はA以外の別の人間の可能性も否定できない一方で、問題文中の他の証拠も合わせて検討すると、「黒色キャップの男」は普通に考えてA以外にあり得ないだろうと思ったからです。

問題文には、「直接証拠にあたらない場合は、同供述録取書から、前記暴行に及んだのがAであること…がどのように推認されるか」とあり、供述録取書単体で判断すべきなのか、それとも他の証拠も併せて判断してもよいのか、わからなくなってしまいました。

 

民事実務 令和元年司法試験予備試験論文式試験

はじめに

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短答・論文模試の結果等

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短答 191点(法律158、教養33、340番台)

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辰巳 90番台/311人

民事実務

塾 120番台/602人

辰巳 130番台/311人

 

再現答案(3.8枚)

第1 設問1

1 小問(1)

 本件訴訟における訴訟物は、①保証契約に基づく保証債務履行請求権及び②①に基づく遅延損害金賠償請求権である。

 訴訟物とは、当事者間における権利義務ないし法律関係の存否であり、その個数の判断は、基準として簡明であるため請求権ごとによるのが妥当である。本件において、XはYに対し保証債務(民法(以下、法名略)446条1項)の履行を求めており、これが①の訴訟物となる。また、遅延損害金について約定利率がある場合、これが法定利率たる年5分(404条)を超えるときは約定利率による(419条1項但書)。Yの保証債務について、主たる債務であるBの貸金返還債務の遅延損害金は年10分であり、保証債務の遅延損害金も、417条1項により年10分となるため、これは法定利率たる年10分を超える。したがって、XのYに対する約定利率たる年10分の割合による遅延損害金賠償請求権が、②の訴訟物となる。

2 小問(2)

 Pが、本件訴訟において記載すべき請求の趣旨は、「Yは、Xに対し、金200万円及びこれに対する平成30年6月15日から支払済みまで年10分の割合による金員を支払え。」である。「債務の履行について確定期限があるときは、債務者は、その期限の到来したときから遅滞の責任を負う」とされており(412条1項)、Bに対する貸金債権の弁済期は平成30年6月15日という確定期限の定めがあり、この日より遅滞の責任を負うからである。

3 小問(3)

(1)①に入る具体的事実は、「本件貸付に係る保証契約を書面により締結した。」である。保証契約は、書面でしなければ効力を生じないからである(446条2項)。

(2)②に入る具体的事実は「保証契約」、③に入る事実は「連帯保証」である。本件借用証書には「Yが、BのAからの上記借り入れにつき、Aに対し、Bと連帯して保証する」旨の連帯保証の特約が付されており(454条)、Xはこれを主張することにより、Yの催告の抗弁(452条)、検索の抗弁(453条)を封じることができるからである。

(3)④に入る具体的事実は「15日、Aには、Bに対しAからXへ本件貸付に係る貸金債権及び遅延損害金債権を譲渡した旨通知した」である。467条1項により、債権譲渡を債務者たるBに対抗するには、譲渡人たるAから債務者であるBに債権譲渡があった旨通知をすれば足り、通知が債務者に到達した時点で通知がなされたことになるからである。

4 小問(4)

 Pとしては、Yの有する唯一のめぼしい財産である甲土地について不動産執行(民事執行法43条1項)を行い、その競売代金から弁済を受けるよう手続を進めるべきである。そのために、Pは、裁判所に対し、甲土地について不動産に対する仮差押えの執行の申立て(民事保全法47条1項)をすべきである。

第2 設問2

1 小問(1)

(1)①について、Qは、本件答弁書において、本件貸付に係る貸金債権には譲渡禁止特約が付されていた旨の抗弁を記載する。

(2)②について、債権は、譲り渡すことができるのが原則であるところ(466条1項)、当事者が反対の意思、即ち譲渡禁止特約を付した場合、これは適用されないからである(466条1項)。

2 小問(2)

 [  ]に入る事実は、「Bは、Xの承諾を得た」である(482条)。

3 小問(3)

(1)①について、BがXにに対し本件絵画を引き渡したことに係る事実を主張することは、必要である。

(2)②について、本件絵画をBがXに引き渡したことは、代物弁済にあたるところ、482条においては「他の給付をしたとき」と定められており、この文言からして代物弁済が効力を生じるには、物の現実の給付が必要と解されるからである。

第3 設問3

1 ①について、Qは本件答弁書においてYの言い分を抗弁として主張すべきでないと考える。

2 ②について、Yの言い分は、本件貸付に係る貸金債権の譲渡について、AからYに対する通知又はYの承諾がない限り、Xは債権譲渡を対抗できないとするものであり、Yが467条1項の「債務者」にあたることを前提にしていると解される。

 しかし、保証債務の範囲は、主たる債務に依存するものであり(447条1項)、債権譲渡に係る通知又は承諾の有無は、あくまで主たる債務者において決せられるものである。そのため、保証人たるYは467条1項の「債務者」にあたらず、Yの主張は抗弁を構成しないため、失当である。

第4 設問4

1 Pは、準備書面において、本件借用証書が真正に成立したものであり、Yが保証契約を締結した事実が認められると主張するべきである。

2 まず、文書は、その成立が真正であることを証明しなければならない(民事訴訟法(以下、民訴法)228条1項。そして、私文書は、押印があるときは、真正に成立したものと法律上推定される(民訴法228条4項)。ここで、法律上の推定が働くためには、押印が自己の意思に基づくものである必要があるところ、我が国の取引慣行上、印章は本人以外は所持し得ないのが通常である。したがって、私文書に本人の押印があるときは、それが本人の意志に基づくものであることが事実上推定され(1段目の推定)、本人の意志に基づく押印があれば、その文書が本人の意思・観念を表示したものと法律上推定される(2段目の推定)。これを合わせて2段の推定という。

 そして、本件借用証書のY作成部分に付き、Y名下の印影がYの印章によるものであることに争いはなく、2段の推定が働くので、本件借用証書が真正に成立したことが推定される。

3 ここで、Qは、は、BがYの印章を盗用したと述べ、押印がYの意思に基づくものでないこと、即ち1段目の推定の部分について争っている。盗用の事実を経験則上推認させる事実として、Yと疎遠であったBが、本件借用証書が作成された直前期である平成29年8月中旬に急にYの家に泊まりにきたこと、BはYの印鑑を容易に見つけることができ、BがY宅で1人となった時間があるため盗用が可能でああったことを述べている。

 しかし、平成29年8月下旬、AがYの自宅に電話した際、Yの母親という利害関係のない第三者が「Yからそのように聞いている」と延べ、「そのような話」とは「Yが保証をしたこと」である。したがって、Pはかかる事情を主張してBによる印章の盗用などはなかったと反論すべきである。 以上

現場での思考

遅延損害金や連帯保証、譲渡禁止特約、代物弁済等に対する攻撃・防御方法の理解が問われてしまい、嫌な部分を多く聞かれてしまったなという印象です。

また、試験委員は本当に2段の推定を出すのが好きだなあと感じました。それだけ題材として取り上げやすい話なのかと思います。

連帯保証については、論文模試でも出題されていました。

そもそも連帯保証の特約は、相手方の催告の抗弁・検索の抗弁に対する再抗弁として提出されるのが一般的だと理解しております。

現場では、請求原因において連帯保証の特約の記載は不要だろうと思ったのですが、そうすると連帯保証の特約について答案に示す機会がなくなり、また、実務上でも本来は再抗弁にあたる連帯保証の特約を請求原因において先出しすることで、相手方の催告の抗弁・検索の抗弁を封殺してしまうという方法がしばしば取られるようなので、請求原因に連帯保証の特約を書くことにしました(かなり心理的抵抗がありました)。

2段の推定においては、「押印」の部分に絞って論述をしました。

本件借用証書にはYの署名もあるようですが、「署名」については1段目の推定が及ばず、自己の意思に基づく署名であることを主張・立証しなければならないところ、本問では「署名」が自己の意思に基づくことを基礎づける事情を抽出できませんでした。

また、本問では借用証書の印影がYの印章によるものであることに争いはないため、これによって2段の推定が既に働いており、Qはこの推定を覆すべく、1段目の推定を争う姿勢と思われますので、その点に議論の焦点をおいて論述するよう心がけました。

 

その他の科目について

青藍です。

予備試験論文2日目の科目の再現答案は、現在作成中です。

本日〜明日の朝にかけて、全科目アップできるように頑張ります。

また当ブログを覗いていただけると嬉しいです。

よろしくお願いいたします。

一般教養 令和元年司法試験予備試験論文式試験

はじめに

青藍です。

予備試験の短答式試験・論文模試の結果と論文本試験の結果との相関関係について探るべく、私の再現答案を晒します。

短答・論文模試の結果等

総合

短答 191点(法律158、教養33、340番台)

塾 260番台/602人

辰巳 90番台/311人

一般教養

 

短答 33点

塾 60番台/602人

辰巳 0番台/311人 

再現答案(設問1:10行、設問2:22行)

第1 設問1

 現存の諸政府は複雑で不必要な制度を多く抱えており、それらの分析により社会の原理に到達することは極めて難しい。政府の適正領域について明確な観念を得るためには、問題を抽象的に考慮し、社会を原初的条件において想像し、そこから生ずる状況と要請を見る必要がある。社会の原初的条件においては、弱者が強者に支配され、最も有力な者も、いずれ力を合わせた弱者の復讐を受ける。そのため人々は、共同体の利益も自分個人の利益も共通の保護の絆に入れ、仲裁権力を他に移譲するようになり、共同体の要請から政府が自然発生する。この共同体の要請とは、正義の執行、即ち人身や財産の保護といった人間の自然権の保護であり、政府の役割もそれに限られるべきである。なぜなら社会には自己調整原理が存在しており、共同体の行動すべてを立法によって規制することは、苦しみと混乱をもたらすからである。

第2 設問2

 私は、本文における著者の主張は、現代の社会においては妥当しないと考える。以下、「教育」をテーマとして論ずる。

 著者は、政府の役割は正義の執行、即ち人身や財産の保護といった人間の自然権の保護であり、それが共同体の要請であるから、政府はそれ以外の部分、例えば教育についても介入すべきでないと主張する。

 しかし、現代においては、1840年代前半と比べて、大きく状況が異なっている。印刷技術や交通インフラ、特筆すべきは情報通信技術の著しい発達により、1840年代前半と比べ、人々は膨大な量の情報と日々接することを余儀なくされる。そこでは、読み・書き・算術はもちろんのこと、外国語や情報通信端末の使い方にも習熟していることが当然となっている。仮に、政府が教育について一切介入しないとなると、子弟への教育は家庭において行われることになる。そうすると、教育にお金をかけられる裕福な家庭の子弟とそうでない家庭の子弟との間に圧倒的な教育格差が生まれてしまう。教育格差は、そのまま弱者と強者の関係となって社会に現れ、著者のいうような社会の「原初的条件」に逆戻りしてしまう。このような「原初的条件」の状態は、著者の主張する通り、共同体の要請でないことは明らかである。

 したがって、今日においては「教育」についても政府が介入し、教育格差を是正することが共同体の要請である。よって、政府の役割は、正義の執行のみならず、「教育」についても及ぶものと考える。 以上

現場での思考

塾や辰巳の模試と比較して、とにかく本文が読みにくいと感じました。

いかにも海外の哲学書を日本語に無理やり翻訳しました、という感じでした。

設問1

「政府の適正領域」は社会の「原初的条件」における「共同体の要請」即ち「正義の執行」に限られ、これ以外の部分について政府は介入すべきでないという点をコンパクトにまとめることが求められていると思いました。

設問2

テーマは「教育」が書きやすそうだったので、「教育」にしました。

著者の主張する政府の適正領域は現代社会においても妥当するのか、

仮に妥当しない(する)とした場合、それはなぜなのかという点を論述する必要があると思いました。

教育格差により生じる弊害を示しつつ、現代では政府が教育に介入しないと世の中回らなくなりますよという趣旨の論述をしました。